第二章 ピカデリーホテル
急に男の重みが増したので息苦しくなり亡くなったと思ったその時、男が目の前から消え、ボディガードのハッサムが吃驚した顔で覗いているのが見えた。
「大丈夫?」と身体をゆすられ心配そうに兄の王子イリヤが見たので「大丈夫!!」と答え、心此処に有らずだったわ!と感じていた。
王子のイリヤも車の中で、亡くなったサドルの事をずっと思い出していた。サドルの上手な指導のお陰でイリヤの弓の腕は国の中でもサドルには及ばないがトップクラスとなっていた。
優しく控えめで何が有っても遠くからじっと見守ってくれた事を思い出し涙が溢れそうになった。そしてサドルの仇は必ず取る!と誓った。
車がホテルに着くと王子と王女は直ぐに部屋へ戻って少し休み帰国の支度を終え、部屋で寛いでアラビア紅茶を飲んでいた。
そうする内にお付きの女性が、カラム副大臣からあと少しで空港へ出発したいと言われたが、宜しいでしょうか?と二人に聞いてきた。二人とも了解したと返事を返し、もう二度とこの部屋へ入る事は無いだろうと思いながら部屋を後に空港へ向かった。
空港では二台のプライベートジェットが待っていて、王子、王女とカラム他のメンバーが各々乗り込みロンドンを後にした。
ロンドン警察・スコットランドヤード三課のロイ警部は、ピカデリーホテルで起きた手榴弾を使った襲撃事件の犯人の目途が立たず、何日も経つのに弱っていた。ヒアリングメモを繰り返し見ながらずっと考えていた。
そもそも何故襲撃をしたのかは、襲われた505号室にステイしているショウ・カツ氏も分からないと言っている。何のためにわざわざ危険を犯してまで襲ったのか? 犯人はプロの仕業に間違いないと確信していた。
カードキーの確保、仲間の回収、逃走の手順、ましてや手榴弾まで市内で使うとは……手許に有る、残ったアラビアナイフ二本が物語るようにアラブ人にほぼ間違いないだろう!
後は手榴弾の出所が分かれば違うのだが多分明日には鑑識セクションから報告が上がって来ると思っていた。何れにしても中々会えないショウ・カツ氏に会わなければ……。
それにしてもガードマンが言っていたが、襲撃者の一人を倒し一人を撃退するとは中々出来ない! ロイ自身も同じように襲われたら自分では同様の結果はとても無理だ!と感じながら事件記録を書き終えた。