「いつ沖縄に来られる?」

「上司に相談してみますが、今の職場に迷惑はかけたくないので、1ヵ月くらいかかると思います。それでいいですか」

「もちろんだよ。営業所を辞めていくうちのエースも、次の人が来て引き継ぎが終わるまではいます、と言ってくれている。亀井君が合流してくれるまでいろいろと新しい戦略を考えておくよ」

「新しい戦略というのはどんなこと考えているんですか?」

「いくつもあるので、来てくれてから具体的に相談する。僕は凝り性なので、考えて企画することは好きなんだ」

それにしてもあれだけ精神的に参っていた僕が、3日間東京に戻って家族で過ごしただけでこれだけ前向きな気分になれたことに、自分でも少々驚いた。

大阪の病院で多めにもらってきた鬱の薬もこの3日間は一度も服用していない。人の気持ちというのはちょっとしたきっかけで前向きにも後ろ向きにもなるんだ、と体験できたことは、営業所長としてこれから役に立つだろう。その夜、琴音に電話して亀井君が沖縄に参加してくれることを伝えたら、とても喜んでくれた。

「驚いたけど、本当によかったね。結構、人望あるんじゃない。車を1回購入しただけの関係の人が東京から沖縄まで来てくれるなんて」

「僕も驚いたよ。あまり期待しないで電話してみたけど、電話してみてよかったよ。なんとか沖縄で頑張ってみるよ。なかなか一緒にいれなくてごめん」

「今が大事な時期だということ分かってる。東京から大輝と2人で応援しているから頑張ってね」

「ありがとう。いろいろな企画を考えているんだ」

前向きな気持ちで返事ができた。琴音は、

「あなたはいろいろ工夫して人を喜ばせることは得意だからきっと上手くいくよ」と励ましてくれた。