沖縄編
出発
「ということで全員の自己紹介が終わりましたが、所長どうされますか?」
「どうされますかと言われても、突然の辞職宣言、驚いています。なんとか考え直してもらえませんか? それから私は所長ではなく所長代理です」
「お客さんにも所長代理で通されますか? 普通に所長でいいと思います。沖縄の人はそんな細かいことは気にしません」
「沖縄の人が気にしなくても本社の方で気にするでしょう」
「そんなこと、報告しなければ分かりませんよ。大丈夫です。名刺も所長で作ってあります。ね、山田さん」
「はい、所長になっています」
「それはまずいでしょう。一種の詐欺と言われても言い訳できません」
「大丈夫です、所長。繰り返しになりますが、沖縄の人はそんな細かいことは言いません。どうしても気になさるようでしたら、もう一つ所長代理の名刺もお作りしますので、適当に使い分けてください。
それから転職のことですが、ご迷惑がかからないよう次の人に引き継ぐまではしっかり仕事しますのでご心配なく。所長も私のような年上の所員がいるより元気がいい若者を採用する方が最終的にはやりやすいと思います。所長なら、きっといい人が見つかりますよ」
「所長なら、というけれど、何か根拠があるのでしょうか?」
「所長がこの会社の親会社で高級車の新車をたくさん売られていたこと、中古車を売りたいからとご自分で希望して子会社勤務になられたこと、伺いました。そういう人だからいろいろと人脈があるのではと思いました」
「なるほど」と言って変に納得してしまった。
これから、いろいろと工夫を凝らして、他で真似ができないような営業所にしよう。
そのためには若々しく魅力的な山田さん、長身イケメンの平良君を生かすこと、あともう一人をどうするか、など考えることは多い。どういうメンバーだと計画が実現できるだろうか?
山田さんはイラストが得意だということが分かったのは収穫だ。計画にバリエーションをつけられる。でも一番の懸念は、新しいことを試しながら営業所を変えていくことができるくらい僕自身の精神状態が安定するかだろう。