「ゴルフ場での写真です。プライベートコンペの記念写真を誰かがアップしたようです。名前が書いてあったのでネットの検索で簡単に出てきました」
そう言って反田君が見せてくれたスマホの画面には、確かに2人が晴れやかな笑顔で写っていた。「ほらここにスコアまで書いてあります。グロス84でベスグロ優勝ですよ。人間、何か一つは取り柄はあるのですね」
「そうなんだ。便利になったけれど、怖い時代だ。でもどうしてそんなことを調べたんだ?」
「特に理由はありません。どうしてあんな人が所長になれたのか、ちょっと調べたろうと思いました。それだけです」
「目的もなく、そんなところまで調べるのか」
「そうですね。そう言われると変かもしれません。ところで、どうして水島と話もしなくなったんですか?」
急に話が水島夕未に戻り、僕はまた慌ててしまった。
「僕は単身赴任で、水島さんの相談に乗っていたけれど、所長を辞めさせるのは難しいと言ったら、する話がなくなっただけだよ」
自分でも苦しい変な答えだと思った。単身赴任は全く関係がない。「実は、副所長が僕に声をかけてくれへんかなとずっと待っていたんです」
「声をかけるって」
「最近は水島一辺倒でしたが、その前に若手の何人かに声をかけてましたよね。皆、せっかく声をかけてもろうても誰も話を聞かんかったでしょ。あれはダメな所長でも一応は所長なので皆怖がっているんやと思います。それに所長は陰で副所長の悪口ばかり言ってましたし」
「所長が常務の御子息ということを他の人も知っているのでしょうか?」
「それは多分ないでしょう。僕が調べたことも他の人には話していません」
「どうして僕が声をかけるのを待っていたのですか?」
「それは、2人で所長をギャフンと言わせてやりたいなと思ったからです」
「僕が所(しょ)のメンバーに声をかけていたのは、若手と交流して少しでもこの営業所をよくしたいと思ったからで、所長を陥れることが目的ではありません」
「それは分かっています。でも、あの所長がいる限り営業所をよくするのは難しいのと違いますか?」
【前回の記事を読む】会うたびごとのセックスとその後の空虚さ。身体に溺れる関係は、長くはもたなかった。
次回更新は12月17日(火)、8時の予定です。
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