大阪編
小康
「結婚されているからですか」
「そうです。普通そうでしょう」
「でも私は結婚する気がありませんので、角野さんの負担にならないと思います」
「え、どうして? 一生結婚するつもりがないのですか?」
「両親を見て結婚に対してネガティブなイメージしかないからです」
「ご両親は2人で四国に住んでいるんだよね」
「いえ、会社には伝えていませんが、父は単身赴任です」
「では、お母様は大阪に?」「いえ、東京です。父が大阪の子会社に転勤になった際に母は東京に残りました。だから大阪は最初から父と私の2人でした」
「どうしてそんなことになったのかな」
「角野さんには全部知っていただきたいのでお話しします。お恥ずかしい話ですが、父は東京勤務時代に会社内に浮気相手がいました。
ひと回り以上歳が離れた若い人でした。父は若々しくて娘の私から見てもモテそうな男性です。仕事もバリバリできて出世コースにのっていましたが、浮気がばれて大阪の子会社に飛ばされました」
「それは大変だったね」
「実際には父のライバルがあることないこと含めて告発したようです。父は左遷されて、とても落ち込んでいました」
「それは気の毒に」
「私は父のことが心配で、高校卒業と同時に自ら希望して大阪で就職しました。父が浮気をして夫婦間の喧嘩が絶えなくなったのは、私がまだ高校生のときでした。
そのうちに母にも付き合う人ができ、お互い様という感じで喧嘩が減りました。離婚はしていませんが、いわゆる仮面夫婦です。そういう環境で育った私は結婚に夢を持てません。だから結婚するつもりはありません」
「複雑だね。でも誰か好きな人ができたら考えが変わるかもしれません」
「もちろん、可能性は否定しませんが、そういう人ができても結婚しないでパートナーとして一緒にいるのが望みです。そこに角野さんが現れました」