水島さんが自分のグラスにも注いだあと、2人で乾杯と言ってグラスを重ねた。一口飲んでみるとカベルネ中心の重厚な味だが、適度にブレンドされたメルローが爽やかさを醸し出している。素晴らしいワインだと伝えると、水島さんは嬉しそうだ。

「さて、1週間前から準備していたという話を聞かせてもらえますか?」

「はい、でもその前に角野さんのために用意したオードブルをお持ちしますので食べながら聞いてください」

「オードブルまで用意してくれたのですか。驚きました」

「私が作りました」

そう言ってテーブルの上に大きな明るい青色の皿に載せたオードブルが用意された。

「今日は、私と思って食べてくださいって、言わないのですね」

「はい、私からは誘惑しない約束ですから」

「あぁ、そうでした。美味しそうだ。全部、魚系だね。ブルーのお皿は海かな? ワインは白にすればよかったかもしれませんね」

「さすが、角野さん、私の意図を分かっていただきました。そういうところが知的で素敵です。前にお伝えしたように角野さんのことを好きになりました。でも本当に進んでいいかどうか正直なところ迷いはありました。そこで一つの賭けをしました」

「賭け?」

「はい、先日のお弁当に隠したメッセージです。もしあのメッセージに角野さんが気づいてくださったら、前に進むことに決めていました。あれから1週間、ワインセラーを買い、ワインを揃えて、角野さんに来ていただく準備をしました」

「僕はそこに、のこのことやってきたわけだ。そういえばメッセージのことお礼を言ったら、少し戸惑った様子で返事するまでタイムラグがあったこと覚えているよ。どうしたのかな、と思った」

「さすがの観察眼です。角野さんが東京でたくさん車を売り上げられたことに繋がっていると思います。私は戸惑ったのではなく、前に進む決心をするのに少し時間を要したのです」

「もし僕がコメントに気がつかなかったらどうするつもりだったのかな?」「角野さんのことは縁がなかったと思って諦めるつもりでした、と言えればかっこいいのですが、きっと何回か同じような賭けをしたと思います。でも1回で気づいていただけたので、これは運命だと思いました」

「水島さんように魅力的な女性にそんなふうに思ってもらうのは光栄だけど、僕はその気持ちに応えることはできない」

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次回更新は12月13日(金)、8時の予定です。

 

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