「実は今、私達が担っているこの国の司法が危機的な状況に陥っているの。自分の欲にかまけて子どもを置き去りにし、餓死させる様な事件がたまに起きるでしょう?
私が扱った事案にこんなケースがあったの。それは子ども達三人を寝かし付けてから夫婦でカラオケに興じていたんだけど夜明けまで興じていた為、その間に目を覚ました子どもが大泣きして、近所の人が警察に通報したから事件となり、保護責任者遺棄罪でカラオケに興じていた夫婦を逮捕して起訴したんだけど、検察官は夫婦を不起訴処分として、釈放してしまったの。
私は頭にきてその検察官を質したら、刑務所が満杯で子ども達に実害があった訳じゃない軽微な犯罪では訴追できない。特に女子刑務所は女性刑務官の離職率が高く、簡単に収容できないという理由を当たり前の様に言ってきたの。
私からしたらそんな甘い処罰では再犯の可能性が高いから、しっかり反省させる意味からも訴追すべきと主張したけど聞き入れてもらえなかったわ。悔しさが収まらず調べてみると、女性刑務官は採用から三年以内で四割が辞めてしまうかららしいの」
思いもよらなかった長い桜田の説明に時折、苦悶の表情を浮かべながら百合子は話を聞いていた。
「そのきっかけが妊娠・出産といわれているので、女性刑務官に任期制の三年・五年制を導入する事で、昔から小中学校の女性教師が妊娠すると臨時講師といわれる教員免許を持った臨時の先生がいたでしょう? それに近い様な代わりを務めてくれる制度を作ることで現状を変えられないかと思ったの」
ここでようやく話が終わりそうな気配を百合子は感じ取った。
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次回更新は12月1日(日)、8時の予定です。