第一部
長女 作代 ── 木下家待望の女子
作代はよく恵介の家に行っていたが、お手伝いさんしかいない兄・恵介の世話をしなければいけないという気持ちがあったのである。
そんな妹・作代を、恵介はかわいがっていた。中国から帰還後の名古屋の病院では世話になっているし、何しろ自分が見極めた徳平と結婚したのだから。教師の給料ではできないことを補ってあげるのは、両親亡きあとは自分しかいないと思っていたのである。
兄・政二のために、兄嫁・房子とその子供たちの面倒を見てきた恵介だったが、一九五五(昭和三十)年には武則一人が養子として残り、弟・八郎も忍(筆者)も自分の下から去ってしまった。
家のことを任せていた八郎を失ったのは痛手だったが、恵介は諦めの早い人である。いつまでも周囲のことに構っていては、良い仕事ができないという思いがあった。
庭を挟んで新築した洋風の二階家を訪れる客も多く、新しい映画製作に向けての発想が次々と湧いてくる。そんな中での、作代や姪たちの訪問であったが、恵介は賑やかなことが好きな人なので喜び、三人の姪たちをかわいがった。