第3章 リハビリ医院へ
大学病院を退院し、外の新鮮な空気に触れたのも束の間、ストレッチャーのまま車に乗り込む。私の横には、看護師さんがついている。久しぶりのドライブのせいか緊張のせいか、着いた時には車酔いをしてしまった。手続きを済ませ、個室に入った後、気分の悪さは治まっていたが元気が出ない。そのまま検査が始まる。血液検査にエコー、CTスキャン。
最後のレントゲン室に入ると、技師の青年が言った。
「立ってできますね」
思わず頷いて車椅子から立ち上がり、後悔する羽目になる。胸のレントゲンはわずかな間だが、その時の私にとっては大変な作業だった。
レントゲンのせいばかりではないだろう、寝ていないし食べていない。ぐったりと横たわる私を見て、看護師さんが不安げな顔をした。大学病院の申し送りでは、もう少し元気なはずだった。おまけに動きすぎて痰が絡み、咳込んでしまった、最悪のリハビリデビューだった。
私を担当する看護師さんや療法士さんを紹介されたが、咳き込んでいてまるで頭に入ってこないどころか、疲れすぎてベッドから起き上がることもできなくなっていた。話が違うと思われたのも無理はない。ここでやっていけるのか、私だって不安だった。
ここの患者さんは骨折半分、脳溢血などのマヒが半分で、当然ギランバレー症候群の患者は私だけだ。理学療法士、作業療法士の皆さんは、戦々恐々で私を迎え入れたに違いない。おまけに私の喉は穴が開いたまま。この時は穴を塞ぐ蓋がついていて、中にはスピーチカニューレが入っていた。
感覚 特に左右差なし
起居動作 柵を使用し自立
移動 車椅子全介助
トイレ 下衣操作見守り~介助左右どちらでも可能
コミュニケーション:スピーチカニューレ使用
口頭でやり取り可能
食事 全粥一口大とろみ0・5%
疼痛 特になし
ベッドから起き上がる時は、片手で柵を掴みもう一方でベッドのマットに手をついて、何とか起きることができたが、疲れると自力で起き上がることができなくなった。移動する時は看護師さんが車椅子を押してくれた。トイレは車椅子から立ち上がることはできていたから、バーに掴まり立っていると看護師さんが下着を下ろしてくれる。私が便器に座るのを見届けて彼女は外に出る。用が済んだらナースコールで呼ぶ。
私のご飯は全粥、おかずは細かくしてあった。お茶にもとろみがついていたが、さほど気にならなかった。
この日、療法士さんに目標を聞かれ、図々しくも「歩いて退院したい」と答えている。実際はこの目標到達の確率は、自分でもかなり低いと思っていた。その夜は疲れてぐっすり眠った。
【前回の記事を読む】車が窓に立てかけられ、天井からはずっと私を見張る医師の姿。体の機能が停止した分、聴力が発達したと本気で信じていた。
本連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。