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アンブロワとプレノワールの双方の居城が近いという往来上の便宜さと、また主従の契約を結んだ諸事情で、シルヴィア・ガブリエルはこの二つの城をよく行き来し、週のうち半分をプレノワールで過ごすようになっていた。
この自然の成り行きは彼にとって計り知れなく幸運で、それにより彼は誰に疑われることもなくイダの下(もと)を訪れることができた。
プレノワールに滞在中は宿舎をあてがわれたが、彼はこれを断って、薬草の知識の教えを請う、などというもっともらしい理由をつけて常にイダの庵に居候(いそうろう)のごとく住み込んだ。
実際、村にいた時もリリスを手伝って薬草となる草を摘んだり、それを束にして干したりもしたので、イダの仕事を手伝う彼の慣れた手つきは誰の目から見ても不自然ではなかった。こうしていれば誰からも不審に思われることなく、夜にはイダの治療を受けることができた。
イダの煎じる薬はよく効いたし、何よりも彼の手をかざし、指をあてがう不思議な治療には効果があった。
治療がなかなか苦しい日もあったが、それを受けたあとは、翌日から彼の体の具合は随分と回復し、また次の治療を施されるまでの間を何とか無事に過ごせるのだった。
イダが自らそう言ったように、こちらでの生活がイダの助けなくしては成り立たないことをつくづく思い知らされていた。
「なあ、お前」
その晩の治療が終わって、イダが話を切り出した。
「お前の具合はこうして儂が時々診(み)てやっているが、誰かもう一人心を許せるような者はおらんのか? 何もかも秘密にしておかねばならんのはわかるが、お前に何か異変があった時に、いち早く儂に知らせに来るような者がおらんと心配じゃ。具合が良くないことくらいは、誰かに打ち明けておいても構わんのではないかな?」