ボリスとナターシャだ

私は思った。「信じられない。ボリスとナターシャだ」

1960年代少年期だった私はテレビシリーズの《ロッキーとブルウインクルショー》に夢中だった。このショーはもともとABCが夕方に、《アメリカンバンドスタンド》の後に放映していたものだった。ちょうど学校の勉強と家での勉強の間の休み時間だった。

私はいつもブラウン管に釘付けだった。ショーで繰り返し出てくるのが一組のロシア人風スパイで、ボリス・バーデノフとナターシャ・ファタルと言う名前だった。

彼らはフィアレス・リーダー(恐れを知らない指導者)という名前の独裁者に報告するのだ。このショーはロシアが西側を乗っ取ってしまうというスプートニック騒動があった冷戦の高まりの時期に人気があった。

ボリスとナターシャは滑稽に描かれていたかもしれないが、おもしろおかしい無能さにもかかわらず、極悪で狡猾なロシアのスパイの典型と思われた。目の前の相手はボリスの中折れ帽と口髭がないだけで、全くそっくりだった。

私は漫画のスパイを現実に見つめていた。私は一杯どうかと誘ってみた。ボリスは「ノー」と言い、長居するつもりがないので立っている方がよいとのことだった。彼は単刀直入に切り出した。

「今朝のあなたの講演で、金融戦争やイラン、ロシア、北朝鮮に対する経済制裁のことをよくご存じだとわかりました。あなたがエキスパートであることは間違いない。あなたに会うために大金を支払うつもりのクライアントがいます。彼らはあなたが知っていることを知りたがっている」

「大金ですのよ」とナターシャは強調した。

「そのクライアントとは誰のことですか? どこにいる方ですか?」と私は聞いた。

「彼らはロシアにいます」

ボリスは言ったが、それ以上明確にはしなかった。

「あなたは彼らに会うのにロシアへ行く必要があります」

「大金ですのよ」とナターシャは繰り返した。多分彼女は最初に言った言葉が聞こえなかったと思ったのだろう。この遭遇があった頃、私は、私にとって初めてのペンタゴンの金融戦争のゲームプランに深く関わっていた。

それは、軍部、CIA、財務省、連銀、それに大勢のシンクタンクの常連及びこのテーマの専門家を集め、ワシントンDC近くにある極秘の応用物理ラボラトリーで2009年3月に実施されることになっていた。

そのため2009年の1月までにはこのゲームのデザインチームがこの戦争ゲームで使う金融シナリオを完成することになっていたのだ。このシナリオには当然ロシアが含まれていた。