「というのは?」

「もともと十燈荘の出身だったからです」

前川はそう言ってから、まるで重大な秘密を話すように声を潜めた。

「元十燈荘の住民は、何故か審査が通るんです。戻ってくる人歓迎、といったところですね。ですから、秋吉さんは、正直に言えば資産が足りなかったんですが、私は通ると踏んで物件を紹介しました」

「十燈荘エステート経由で、ということですね」

「そうです、そうです」

前川は頷く。そして、ちょうど目の前に置かれたコーヒーを口にした。深瀬は、まだそれに口をつけない。

「十燈荘で仕事をするなら、何でもあそこを通さなきゃならないんですよ。で、物件を確保してから秋吉さんには大丈夫だろうと返事して当社へお越しいただき、詳しくお話を伺いました。秋吉さんは、アウトドアや自然が好きでDIYが趣味だったんですよ。それで、意気投合してしまいまして。初めてお会いしたその日に、一緒に飲みに出かけたほどです」

それを言ったとき、前川の表情が少し曇った。友人を亡くしたような、寂しい顔に見えた。

「で、その翌週くらいからですかね。一緒に資金計画を考えて、移住プランを具体的に練っていきました。週に一度オンラインで打ち合わせをしたりして。秋吉さんは銀行にお勤めで資産運用にも詳しく、静岡中央市に転職する当てもあるとのことで信頼しておりました。無事転職が決まって、移住の話も一気に進みましたよ」