(八)お帰りなさい、ホームレス
初めて基幹病院の小谷病院以外での二週間のレスパイト入院から帰っての一時間後。
いつもレスパイト明けには大歓迎をしてくださるヘルパーさんたち。さぞやと思って見ていますと、玄関口に迎えてくださっていたヘルパーさんが「お帰りなさい。あれ、どしたん、お父さん」と言ったきり、ドタバタと療養室からいなくなってしまいました。
一体どうしたというのでしょう。何か突発的なことでも起きたのかと思っていると、厨房で人の気配がするのです。のぞいてみますと、さっきのヘルパーさんが泣いているのです。私の顔を見ると、「お母さん、ごめんなさい。お帰りなさいと笑って迎えなくてはならないのに、こんな泣き顔をお父さんにはとても見せられなくて、逃げてきました。本当にごめんなさい」
と私にしきりに謝るのです。そしてなおも、
「あんなホームレスみたいなお父さんの顔を見たのは、私は初めてです。いつもさっぱりとした顔をしていて、私たちが何かドジなことや失敗をしたりしても、大きい目をパッチリと開けて、ベッドの上からにこりと笑ってくれます。それがどうしてあんなに薄汚れた(あっ、ごめんなさい)顔になっているのですか。まるでホームレスです。私はびっくりしてしまって。お父さんがかわいそうで」
と涙をぽろぽろと落とすのです。この姿を見て、思わず鬼婆の私も、ホロリとしてしまいました。
このヘルパーさんは、たまたまうちの娘と同い年で、いつも私と夫をお父さん、お母さんと呼んでくださるのです。また、このヘルパーさんは、わが家のヘルパー群団の中でも超ベテランです。
彼女がヘルパーとして入ってくれている時間には、われわれ家族は呼び出されることもなく、安心して仕事が出来るというほどお任せできる人なのです。
そのベテランの彼女が、こんなに取り乱したのを見るのは初めてです。これには私の方がびっくりしてしまいました。
落ち着いてからその理由をよく聞いてみますと、夫があまりにも汚れた感じだったので、いつも自分たちが身ぎれいにさせようと心配りをしていたのにと情けなくなると同時に、あまりにも夫がかわいそうになってしまって我慢できなかったので思わず泣いてしまったというのです。
これを聞いた私は、わが「チーム昭四郎」のみなさんは、こうした心から夫を家族のように思ってお世話くださっているのです。なんと幸せなことだろうと思うと、今度は私の涙腺があやしくなりました。