二年目は尾瀬へのキャンプ計画でした。

私は「またあの新鮮な空気に触れたい」と言う思いを抑えきれず無理を承知で、「尾瀬のキャンプに行きたい」と話すと、母はしばらく沈黙していましたが、

「いつも頑張ってくれているから、そのご褒美だよ」と言って快く承諾してくれました。私は経済的に苦しい中、私の希望を叶えてくれる母の優しさを嬉しく思いながらも、少し後ろめたい気持ちもありました。

自分の我がままを自覚していたのです。

キャンプ当日の出発は夕刻でした。バスの中で仮眠をして、夜明け前の暗いうちに尾瀬への峠を越えるのです。全員懐中電灯を持って、自分の足元を照らしながらの登山でした。そして、峠の頂上で日の出を迎えました。

眩しい程の輝く日の出を、初めて見ました。その輝きは、私の過去を明るい未来につないでくれる光でした。

四方に光を放つこの生まれたばかりの太陽のように、私も新たな自分に生まれ変われる予感がしたからです。その時の歓声に包まれた不思議な輝きは、私の瞼の裏に今も焼き付いています。

その峠を下りると尾瀬に到着です。

尾瀬沼を眺めながら、これから登る燧ケ岳の登山口に向かいました。その燧ケ岳登山は二度と経験できない貴重な、と言うより今思えば危険とも言える思い出なのです。

燧ケ岳は見上げると、三角おにぎりの形の山でした。とても急な斜面を登るのです。その斜面に深い窪みがあり、その窪みには岩がごろごろと散在していました。そこを大股でグイグイと一気に登って行きました。

上に着くと狭い頂上でした。身体を寄せ合い青空の下で、おにぎりを食べていた時です。遠くの空に、ポツンと小さな黒い雲が見えました。

それが、まるでビデオの早送りのように見る見る大きくなり、頭上一面に覆いかぶさってきたのです。あれよあれよと言う間に強風が吹き荒れ、大荒れの天候に襲われました。

「山を下りるぞ!」と先生が怒鳴ると同時に、大粒の雨が勢い良く降ってきました。

カッパを着る間もありません。皆必死に山を下りました。

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