母光江とそんな会話があった数日後、学校へ行くと悟が駆け寄ってきた。

「晃、お前も塾に行くだろ」

「なんだよ、急に」

その後ろから気だるそうに健斗がやってくる。悟が健斗の肩に腕をまわして、

「俺たちはやっぱり三人じゃないと。な、健斗」 と言うと、悟に肩を揺すられて苦笑する健斗。

「今友達紹介で入ると色々特典があるんだって親が言ってた」

「へぇ……悟、お前入るの?」

「うん。昨日おふくろに入塾テスト受けろって言われて受けることにしたんだ」

「まじで?」

「理由はそれだけじゃないんだけどね」

いたずらっぽく、悟が健斗の肩をさらに揺らす。

健斗はぐにゃぐにゃと揺すられながら「まぁな」と曖昧に答える。

「なんだよ、言えよ健斗。三組の西野もどうやら入るらしいぜ」西野の名前に晃の心が動く。

「え、まじ」

 健斗のもったいぶった様子に悟がニヤつく。

「健斗、西野のことが好きなんだろ」

「なんだよ、それはお前だろ」 顔を赤らめてムキになる健斗とからかう悟がじゃれ合うのをよそに、晃は想像する。

西野洋子は晃たちのマドンナ的存在だ。見た目の大人っぽさと落ち着き、たしかお父さんが日本人じゃなくて、中東かどこかの国で、だから目鼻立ちがはっきりしていて美人。ちょっとエキゾチックでなんだか同年代とは思えない雰囲気がある。洋子と友達になりたい、どうにか関わりを持ちたいと願う、そんな男子はたくさんいた。

そんな洋子と同じ塾。晃も声にこそ出さなかったが即答で行く決意をした。

――俺も行く。

塾へは最寄り駅から四駅先で、晃と悟は母親と電車で入塾テストを受けに行った。

空に広がる蝉の声。どこからか聞こえてくる子供たちの声。

青い空、白い雲。緑の匂い。夏休み。

 

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