第一話 ハイティーン・ブギウギ ~青松純平の巻~
5
走り始めてから十分も経たないうちに俺は喉がカラカラに渇き、身体全体が疲れてきた。
こんなに体力がないとは思わず、我ながらびっくりする。道路沿いにポツンと置かれている飲料水の自動販売機を見つけると、迷わずに向かった。
ちょっと休憩しよう。スポーツドリンクを購入すると、座るところがないので仕方なく地べたに座り込み、水分補給をした。
「うんめえ。生き返るわ」
そう言うと、赤星先輩から受け取った四つ折りの紙をウエストポーチから取り出した。雑誌に掲載されていた募集広告をコピーしたもののようで、衝撃の見出しが躍っていた。
【歌って踊れる四十五歳以上の男性限定! イケてるミドルアイドルコンテスト】
アイドルか……。
千香子に「なんでもいいから早く職に就いて家族を安心させたい。昨日とは違う生き方見せたいと思う」「仕事に貴賤はないんだから」と言った手前、がんばらねば男がすたる。
しかし……いまさらアイドルを目指すってどうなの?
そう思いつつ、俺は募集内容を熟読する。
【主催者はアイドルのプロデューサーとして日本一有名な男】
【賞金は一千万円】
【大手芸能プロダクションとレコード会社の全面バックアップによりメジャーデビュー】
すごい。よくこんなイベントを考えたなあ。しかし……果たして俺になれるのか?
――でもあなたはダメ。給料の良い仕事じゃなきゃ。
千香子の言葉がリフレインする。待てよ。アイドルは給料の良い仕事だぞ。売れたら、という条件付きだけど。所属する事務所が安月給の給料制でなかったらだけど。
――でもあなたはダメ。給料の良い仕事じゃなきゃ。
千香子の言葉が再びよぎる。
なんだ?……何かの暗示か?……。
千香子……健太……若葉……母さん……。
よし、腹を決めた。いっちょやってやるか。
俺は立ち上がると、スポーツドリンクの入ったペットボトルをマイクに見立てて片手で持ち、昔を懐かしむようにマッチョの歌真似を始めた。
「明日こそ千香子を幸せにしてやる~!」