第二話 あなたに会えて幸せだった ~緑谷光司の巻~

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まいったな。

私は郵便受けに入っていた封筒をその場で開けて見て溜息をついた。築上町図書館が募集していた図書館司書に不採用となったのだ。

純平の前では「私は悲壮感だ」と強がっていたものの、現実を目の当たりにすると悲愴感でいっぱいになる。

ネットで調べると、図書館司書は他県でもたくさん募集していたが、実家からほど近い勤務地にこだわったのは理由がある。社会的に深刻化している空き家問題が他人事ではなくなったからだ。

一年前に一人暮らしをしていた父親が亡くなり、実家が空き家になった。曾祖父の代に建てられた古い戸建ての家。祖父も父も私もこの家で生まれ育った。

浴室は今どき珍しい五右衛門(ごえもん)風呂。薪(たきぎ)を燃やす直火焚きだ。玄関から十メートルほど離れたところにあり、雨の日は傘を差して移動しなければならない。子供の時分は面倒だったが、成長するに従い趣を感じるようになった。

台所は土間。居間から台所、台所から居間への移動もちょっと面倒臭い。サンダルを履かなければならないからだ。これもまた年を取るにつれて風情を感じたものである。

この思い出の詰まった古びた一軒家に、私は愛着があった。だから父が亡くなったとき、家を取り壊すことなど考えもしなかった。リタイアした後に故郷に戻り、のんびりと暮らすつもりでいたからである。

ところが、リストラの宣告を受けてほどなく、父に万が一のことがあった場合に備えて連絡先を伝えていた実家のお隣さんから、思いがけず苦情の電話を受けた。