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配達を開始してしばらく後、当てにならない品川さんの推測を反芻しながら、ぼくはメゾン灯の階段をゆっくり上っていた。

確かに荷物を選べないというのは恐いことだ。実際宅配便の荷物が荷台で爆発したというニュースを以前見たことがある。それに、テロばやりの昨今では、爆弾、ウィルス、毒ガス、何が入っているか分かったものではない。さすがに瞳子さん宛の荷物にそんな物は入っていないと信じている。

とはいえ、自分が抱えている荷物が爆弾だったら、という設定はスリルがあってあんがい面白かった。自分が爆弾を送り付ける側だったら、という空想は更に愉快で、差出人も届け先も適当に書いて、荷物爆弾を送り付けてやるのだ。すると配達途中のトラックのコンテナの中でそれは炸裂し、届けられるはずだった他のたくさんの荷物はこっぱみじんとなる。

その荷物たちにはれっきとした実名が記されているわけで、つまり、匿名が実名を打ち破るということになるとするなら、名もなき者の勝利。それこそぼくに残された最後の革命行動の噴出ではなかろうか……? などと、ちょっとテロリスト気分を味わいながら、瞳子さんの部屋、二〇三号室のボタンを押す。

髪を後ろで束ねた彼女が顔を出すと、ぼくは荷物を差し出し、「はい、爆弾です」とにこやかに渡した。

「な、何、爆弾て?」

「ほら、こないだ品川さんのこと話しただろ? リカー品川の店主でさ、宅配もやってる。あの人が、こいつの中身は爆弾だって言ったんだよね」

「アイツなら、作れたら入れてるかもね」

「梅図赤子? とんでもなくイカレた女だな」