たぶん、梅図赤子というのは瞳子さんのことだと思うから、ぼくは大袈裟な声で罵倒してやった。すると彼女はむっとしたように唇を結び、ぼくから荷物を奪うと、つっけんどんに、「さ、上がりなよ」と促した。
たとえむっとされても、当然のこととして部屋に招かれるくらいに、この配達終わりの道草は恒例のものとなりつつある。
配達で汚れた手を流しで洗い、茶の間に入ると、コタツの上にはすでにビスケットやしけせんなどが入ったお茶菓子の皿と、急須と湯飲み茶碗が用意されていた。ぼくが入ってきたせいで寒気が部屋に流れ込み、エアコンが勢いよく唸り出した。
瞳子さんはダンボール箱をコタツ布団の上に投げ、ぼく専用の湯飲みにお茶を注いだ。箱のあの雑な取り扱いからいって、中身は大したものではないのだろう。中身については、『ナマモノ』に丸が付けてある。ミカンでも入ってるのか、というくらいの重さはある。
「贈り物そんな雑に扱ったら、梅図さんに叱られるよ」
お茶を啜り、のんびりとぼくは呟いた。
「アイツの贈り物なんて大したもんじゃないから、いいの」
まだバレていることに気付いていないのか、気付いていても気恥ずかしくて誤魔化しているのか、確かめてみたくなる。が、瞳子さんは話題をそらした。
彼女の湯飲みをぼくの湯飲みにこんと当て、無言で乾杯してから、「さっきの爆弾じゃないけど、これまでさ、なんか怪しげな荷物って、あった?」という質問をしてくる。
怪しげな荷物といえば、数日前にこんなのがあった。表向き不動産やら金貸しをやっている『ハッチャン商事』なるヤクザのような者の事務所に、あまり大きくない荷物を届けた。その荷物の伝票にある依頼主は、地元ヤクザの〇〇組と書かれてあり、備考欄に、『もし受取り人が三日不在の場合、送り主に戻すこと』とあった。
ぼくは箱の中身を疑った。ナマモノ、に丸がつけてあるが、実はナマモノを装った別のもの、拳銃、あるいは麻薬かもしれず、もし自分が届けたものによって大きな犯罪が起こったら、自分もまた犯罪に加担したことになるのだろうか? などと想像を脹らませた。