「私から声をかけさせてもらう前に、ちょうどジュースを溢(こぼ)しちゃって。それで、後ろにいらっしゃったお客様に謝っていらっしゃいました。かけられた方も特に怒っていなくて、クリスマスらしい光景でいいなって思ったんです。そこでゴンドラの順番が来たんですが、ちょうどシルバーゴンドラだったので、申込時に高齢者とわかっている方はそれに乗れるとお話ししまて……」

「つまりそれが亡くなった老人か。転落したゴンドラに乗るはずだったその親子が、観覧車ジャックの証言者というわけだ」

「そうなりますね……」

滝口が少し俯きながら声を発した。亡くなった乗客を悼むような表情だった。

「では、その親子の特徴を教えてください。名前、職業、髪型、身長、服の色、知っていることなら何でもいい」

ええと、と滝口は少し渋りながらも口を開く。

「まず、お父さんのお名前は仲山秀夫さんです。髪は……短かったです。顎と口に少しヒゲのそり残しがありました。身長はそんなに高くはなくて、私と比べて考えると一七〇センチ台の前半だと思います。ジーンズを穿いていて、茶色のジャケットを羽織(はお)ってました。水色のリュックを持っていたと思います。娘さんは黄色いコートを着てて、あと風船を一つ持ってました」

「……仲山さんね。そうですか、よくわかりました。それで仲山さんとは、ゴンドラ落下のあと、緊急電話で話をしたわけですね」

「はい。運営局に向こうから連絡が来ました。あの時は、たまたま私が運営室にいたので」

「それで、その仲山さんの様子はどうだったんですか?」

「ええと、とても落ち着いていらっしゃいました。私より何倍も怖いはずなのに、混乱する私に落ち着いて欲しいと言ってくれたくらいで……。その時確かに言ったんです」

「なんと?」