「じゃあなぜ観覧車ジャックなんて物騒なことを言ったんですか? 悪ふざけでは済まされない、捜査攪乱ですよ」

貝崎は強めの口調で問いただし、滝口は言葉を詰まらせた

「それは……」

「滝口さんは大学生だそうだね、しかも女性ながらに工学部在籍ときた。実に優秀だ。だが、事の重大さがわかっていないようですね。これはゲームでもドラマでもない、現実に起きている出来事です」

「わかってます……それは。わかってますから……」

滝口は、繰り返すように早口になりながら声を発する。

「わかってる? そうは思えませんねぇ。絶対に安全だといわれていた観覧車が動きを止め、ゴンドラが不意に落下し、地上は予想だにしないほど混乱している。そんな真っ只中、観覧車ジャックと言い切るとは普通じゃないでしょう。事態を更に混乱させる可能性大。

一方であなたの同僚は、あなたの緊急時のアナウンスがとても冷静だったと言っていましたよ。では、なぜそんなに落ち着いているんでしょうか?」

貝崎は足を組みながら滝口に問う。

「待ってください、私が何かしたって言うんですか? まさか、疑われてるってことですか?」

可能性はゼロではありませんね、と貝崎は口にする。

「まさか……! 落ち着いているように見えたのは、研修で何度も訓練されていたからだと思います。緊急時の対処法やガイダンスは徹底的に覚えましたし……私だってもう何が何だかわからないですよ、だいたい、バイト先を滅茶苦茶にする意味なんてないじゃないですか」