「そりゃ、中身はこの混乱で逃げ出したんだろう。子どもの夢を壊さないよう、脱いでからな。そっちはどうでもいいだろう、時間の無駄だ。そういえば、落ちたのはシルバーゴンドラとかいう話だが、これは必ず高齢者が乗るものなのか? 何かゴンドラに特徴が?」

「いいえ、シルバーゴンドラだからといって、ゴンドラの仕様に特別の違いはないようです。その列に該当する高齢者がいれば乗れるというもので、もしいなければ他の誰でも乗れるようですね。ただ高齢者がシルバーゴンドラに乗った場合には二周回れるという特典が」

「なるほど、なるほど。子どもが遊ぶ夢の国を、高齢社会のビジネスに対応させたいい例だ。で、現時点で死者は二名。現状、事故と判断せざるを得ない。他には何がある?」

「それが貝崎さん、現場に行かせた警察官がさっき緊急で戻ってきまして。この『ドリームアイ』の乗客を誘導する担当係員が妙なことを言っていたそうなんですよ。滝口美香さんという大学生なんですが」

「滝口美香」

貝崎はその名前を自分の口の中で繰り返した。

「ドリームアイ運営局の人間か。で、なんと?」

ポケットに手を入れて顎をくいっと上げる貝崎に対し、報告者の金森はますます背を丸めた。猫背が他の捜査員の印象に残る。

「彼女は、これは計画的殺人だと言ったそうなんです」

「ほう……根拠はあるんだろうな?」

貝崎に睨まれ、金森は首を縮める。

「いやいや……あくまでも素人の言い分です。『ドリームアイ』のゴンドラに乗っている乗客の一人と連絡が取れたそうで、それによると既に犯人から入電があり、故意にゴンドラは落とされたと言っています」

「何だそれは。パニックを起こしているだけじゃないか?」

「はい、信憑性には欠けています。ただ、彼女は終いには、この一連の事故は観覧車ジャックだとか言い出したんですよ」