「申し遅れたが、私は警視庁捜査一課の貝崎だ。城南警察署の諸君、ご苦労。私は独り身だが、諸君らには家族がいるだろう。事故だか事件だか知らないが、とっとと解決して家に帰ることを推奨する。今日はクリスマスイヴだからな」
上からの物言いだったが、所轄への配慮を感じられたこともあり、現場の警察官達はより背筋を伸ばした。
「まずは被害状況の把握、事態の収束。私が出動させられたということは、事件である可能性も上層部は視野に入れているんだろう。正式に事件と確定し捜査本部が立ち上がるまで、現時点より私が捜査指揮を執ることになった。まずは現場の状況を教えろ」
これが、現場のやる気を引き出す貝崎なりのテクニックらしい。貝崎は周囲を見渡すと捜査員の持っていた双眼鏡を取り上げた。
「地上から双眼鏡を使えば、ゴンドラ内に人がいるのは何とか目視できます」
警察官がそう報告する。
「そのようだな。だが、顔までとなるとかなり曖昧だ。身元確認は別途しなきゃならん」
「ええ、そうですよね」
金森が貝崎におもねるように同意した。
「だが下部分に止まっているゴンドラは地上から近いな、おそらく梯子車での救出も可能だ。念の為にヘリの準備も必要だと本庁に伝えておけ。いつでも飛ばせる体制を整えておくんだ」
「わかりました。ところで貝崎さん、捜査一課がなぜ? これって事故じゃないんですかね」
「金森、お前は俺に質問できる立場か?」
「……大変失礼しました」
そう言って金森は二歩ほど下がった。代わりに、城南警察署の警察官が一歩前に出てくる。
「ご指示をお願いします」