先ほど拒否されたクマのぬいぐるみも取り出して渡すと、凛はそれをぎゅっと握りしめた。あとは、外が見えないように凛をゴンドラ内の床に座らせ、パンとお茶を渡して落ち着かせる。
「じゃあ、少し待っててくれ」
ふうう、と深呼吸をすることで、仲山は落ち着きを取り戻したようだ。
もう一度地上を見ると、さっきまで頭上にあったゴンドラが観覧車から外れ、地上に墜落して『愛の台地』の上で燃えていた。丸みのある形であるから、落下の衝撃で転がったらしくドリームアイから少し離れてしまっている。激しい火の手が上がっており、中にいる人間は助からないだろうと予測できた。
火から逃げようにも、ゴンドラの開閉は全自動で手で開けられそうにない。この条件は自分も同じだと気付いた仲山はゾッとした。それに、今低い位置で停止しているゴンドラならともかく、仲山の乗っているゴンドラの高さでは、そもそも落下した時点で即死だろう。
仲山は緊張しつつ、備え付けの電話を手に取った。先ほど、『小人』は携帯の電波を遮断すると宣言している。しかし、この電話は流石に妨害できないだろうと考えてのことだった。
呼び出し音が鳴り響く。他のゴンドラの人間も同じように通話を試しているのか、なかなか繋がらない。もしくは現場が混乱していてスタッフが不在なのかもしれないと、仲山は、神頼みをするかのように受話器を握りしめた。
『はい、こちらドリームアイ運営局です』
慌てた様子の声が聞こえた。仲山にとっては聞き覚えがある声だった。
「あんた、あの係の人だな。名前は確か滝口さんだったか。名札を見たから覚えてる。とりあえず無事でよかった。一体、今何が起きてるんだ?」
『ええ、はい。いえ、あのう』
滝口は混乱し、呂律が回っていない。仲山からの問いに応えられなかったが、ゴンドラが地上に落下し、大きな爆発が起きたのだからそれも無理はない。
「運営局は無事なのか?」