そう言って顔をぷいっと横に向ける。
「この服じゃダメだったか? 確かに、格好よくないかもしれないな……」
仲山は困りつつも娘の手を取った。
「よーし、凛。もう予定が大きくずれてしまったからな。急ごう、夢の国ドリームランドを思いっ切り楽しむぞ」
「えー?」
気乗りしない声を出しながらも、凛は手を引かれた。
二人は窓口でチケットを引き換え、顔写真を撮影し、大きな入場ゲートを抜けた。そこは現実とはかけ離れた夢の国だった。猫だの犬だの個性溢れる着ぐるみキャラクターに、笑顔が形状記憶化しているスタッフ達。古いとはいえ定番のアトラクションの数々に思わず目を奪われる。
仲山はまるで少年に戻ったかのように胸を躍らせた。いや、何よりも娘といられることが嬉しいのだ。
ドリームランドは入ってすぐの正面に大きな噴水があり、その周りをなぞるかのように黄色い水仙の花が並んでいる。その奥には『愛の台地』と呼ばれる場所があり、ランドマークである『ドリームアイ』が圧倒的な優美を見せつけていた。
「凄い、思ったよりずっと広い。それに、海外からのお客さんもいるな」
「そうだよ、夢の国ドリームランドだもん」
「凛も知ってるのか」
「うん!」
「でもな、お父さんも徹夜で勉強してきたんだ。ほら見てみろ、まずこのまま直進して『花の祭壇』に向かって、それから『宝の洞窟』のある地下に潜って、そこから『愛の台地』に出るんだ。そして巨大展望型観覧車『ドリームアイ』に乗る、そこでちょうどお昼の十二時に……」
計画は大事だとばかりに、仲山は調べてきた紙を大きく広げて夢中で話し始めた。計画のこととなると周りに気を配れないのは仲山の欠点だ。ふと気付くと凛の反応がなく、気配を感じなくなっていた。慌てて周りを大きく見渡したが、そこに娘の姿はない。