「あなたといない時間は長かったわ。凛は恥ずかしいのよ、すぐに慣れるわよ」
「そうか、まあ元気そうで何よりだよ」
「あとこれ。必要なものを入れといたから」
そう言うと惟子は子ども用のリュックを仲山に手渡した。
「あ、ああ。意外と重いな、何が入ってる? 泊りでもあるまいし、お前はいつも荷物が多い」
仲山はおぼつかない声を出した。水色のずっしりと重いリュックを受け取る。
「日用品よ。夜まで時間があるんだから、色々必要でしょ。困った時に開けて」
「わかったよ。お前はどうするんだ?」
「一度家に帰るわ」
「そうか」
「じゃあ凛、いい子でね。夜八時にここで」
その念押しに頷いて背を向けると、仲山、と再び声がかかる。
「どうした? まだ何かあるのか」
「……気を付けて」
「あ、ああ」
一体この挨拶はなんだろうか? もちろん娘の安全には最大限気を配るつもりだが、惟子には何か言いたいことがあるようだと仲山は気付く。夜に話すという「大事な話」のことかと、首を傾げながら返答した。
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次回更新は10月5日(土)、20時の予定です。