「居場所……」
「今度は僕が、誰かの居場所を見つける手伝いがしたい。バーバラに恩返ししたいと思った。バーバラが元気なうちに」
「ハハハ……。大丈夫、まだまだバーバラは元気ですよ」
祐樹はゆっくり首を横に振った。そして慎重に話を続けた。
「ある日、見てしまった。先生の名前が書かれた、処方箋を。気になって、他の先生にしつこく聞いてみて分かったんだ」
「……」
「バーバラは何回か、癌の手術を受けていた。ちょうど僕の卒業式と手術の日が重なってしまい……。先生、何度も謝るから僕も辛かった」
果音は一瞬、自分の耳を疑った。
「う、嘘」
祐樹はゆっくりと話を続ける。
「普段、とても元気に見えたから、ショックだったよ。君にもショックを与えてしまったね。ごめんね」
「何かできることはないかと聞くと、バーバラは『生徒の笑顔が一番の薬!』って言ってね。それからね……」
「それから?」
「うん。『死んでもおかしくない状況で、意味があって生かされている。神様にもらったおまけみたいな命だから、恩返しがしたい』って」
「恩返し?」
果音の声が小刻みに震えた。
「そう。『一人でも多くの人に、居場所を見つけてもらいたい』って話してくれた」
果音は何が何だか分からなくなりそうだった。バカ! バーバラのバカ!
「わ、わたし、そんなこと知らないで、元気のないバーバラを責めて、罵倒して……」
果音は、目の周りがカーっと熱くなるのを感じた。
「もしかして、君もここで居場所を見つけたのかな?」
果音がうなずく。うなずくと同時に、スーッと涙がこぼれ落ちた。
しばらくして、保健室のドアを誰かが乱暴に開けた。