事故の知らせ

私の名前は薬師(やくし)ひろみ。60才になるまで大病院の看護師だった。

現在は30年前に前夫と協議離婚をしてからずっと再婚をしないで無職のまま、バツイチになった長女の直美と長男の雄二夫婦と孫1人と一緒に生活をしている。

自宅は雄二が働いている金沢市の有名和菓子店から徒歩で10分程離れた場所にあり、物件を購入した時に引っ越してから16年が経過している。

こんな状況を日々感謝しながら生活していた私に突然、自分でも予想すらしていなかった不幸の連絡が自宅の電話にあった。

「もしもし。薬師直美さんの家族の方ですか?」

そう言って電話をかけてきたのが警察関係の人だった。私が直美の家族だと認めると、少し時間をおいてから再び話をし始めた。

「今から約5時間前、娘さんが運転する軽自動車の側面に交通標識を無視して侵入してきた乗用車が衝突する事故が発生したと連絡があり、我々が現場へ急行してみると相手側の運転手にケガはなかったのですが、娘さんは緊急処置を行っても意識が戻らないのを確認しました。

そして娘さんの所持品から、娘さんが勤務している病院の身分証明書を見つけることができたのと現場から一番早く緊急搬送できる病院だったので、救急車の運転手にその病院へ緊急搬送をするように指示しました。そして、運転免許証で娘さんの住所を確認できたので連絡先を探して今、電話しているのです」

その話を聞いた後、私は動揺してしまい電話の相手に何回か間違った事実を連絡しているのではと確認したが、返事の内容は「残念ながら事実です」の繰り返しだった。そのあと警察からの連絡が途絶えたので、次に私は娘の携帯電話に何度もかけてみたが、まったく連絡がつかない。

そのため1回大きく深呼吸をしてみると少し冷静になることができたので、今度は長男の携帯電話に何度もかけてみたが、留守番サービスの案内説明しか聞くことができない。

そこで今度は長男の職場に電話して、本人に代わってもらうようにお願いした。それから1分ほど経過して、やっと長男と連絡をとることができた。

長男は私の話を聞くと、すぐに上司に緊急事態なので早退できるように許可をもらってから急いで自宅に戻ってきた。そして私を急いで自家用車に乗せて、一緒に娘が搬送された病院に向かったのだった。

搬送先の病院に到着して、すぐに緊急外来受付で教えてもらった、娘がいると思われる集中治療室に急いで向かった。私には、慢性的な腰痛と両足にヒザの痛みがある為に、同世代の人達と比較しても身体をあまり早く動かせない。

それでも、私は一生懸命に杖を使用して、集中治療室へ向かった。長男の雄二は、そんな私の動作を確認しながら、少しでも早く集中治療室に連れていこうとした。

そして、やっと目的の場所に到着した私達は、急いで集中治療室に入室できる許可をとる為、インターホンで室内にいる看護師さんを呼び出した。

「すいません。この中にいると聞いた薬師直美の家族の者なのですが」

その言葉を聞くと同時に、1人の看護師が私達を素早く入室させてくれた。どうやら対応してくれた看護師は、娘を担当している看護師であり、また娘の同僚らしく私がこの病院に入院した時も、何度か看護の担当をして顔を覚えていてくれたからだ。