深瀬は、見たままを口にする。

「表札のすぐ横に血痕。擦って指紋を消した模様。拭き取られてはいない。……拭く暇がなかったか、夜で見えにくかったのか、雑な犯行だ」

斜面に建つ秋吉家の住所は、静岡県藤市十燈荘町四二三。路肩にも警察車両が数台停車し、入り口や家の周囲には規制線が張られ、ただならぬ空気を放っていた。

「あ、深瀬さん! 深瀬さんが来られたんですね!」

後輩の笹井幸太(こうた)が深瀬を見るなり敬礼し、声を震わせた。静岡県警の深瀬と言えば、その筋では有名である。

長身で青白い肌、睡眠不足なのかクマがひどく、疲れ切っているようにも見えて、顔から感情が読み取れない。髪も洗いざらしのボサボサで、およそ警察官として信用できそうには見えなかった。

しかしその見た目に反し、県警一の切れ者とも呼ばれている。もう一つのあだ名は死神。見た者は納得するだろう。

「お前は誰だ。一人か?」

「はい。先日、静岡県警捜査第一に異動してきました、笹井幸太と申します! まだ一緒に捜査する相棒がいない上にちょうど手が空いていたので、お前が先に行けと部長から言われて九時四十分に現着しました」

「なら八十分あったな。どこまで調べた?」深瀬は笹井に問うた。

「秋吉家は四人家族で、三名死亡。一名は救急搬送されています。遺体はまだ現場に。司法解剖予定ですが、現時点で、死亡推定時刻は昨日夜から今朝方にかけてだろうと鑑識が」