「何とか敵意を突破しました。これから冥府を出ることと致す英良様」
「大丈夫か毘沙門天殿……?」
「なかなか手強い軍勢で御座いましたが、何とか無事で御座います英良様」
「荻野一族とか言ったな毘沙門天殿……」
「御意」
「一掃したようだが……。冥府の追っ手と荻野一族。何故このように行く手を塞がれる毘沙門天殿?」
「我も幾重に闇の軍勢が追ってくることを疑っておりましたが、この後にはやはり大きな力が働いているものと想像がつきます」
「大きな力?」
「御意……」
「その力とは?」
「鏑木かと思われます英良様」
「そうだったか」と英良はため息をつく。
「何やら重苦しい気配を感じます英良様……」
「そうか」と英良が言うと「英良様、くれぐれも御用心下され!」と毘沙門天は言う。
「分かった毘沙門天殿……早く戻ってきてくれ!」
「御意」
広目天は神龍と共に対の神器を探していた。鏡盾……を。闇の力が蠢く冥府の中は、四天王の力を持ってしても容易に先へは進めなかった。広目天は神龍に乗り先を目指していたのだが、魑魅魍魎による怨念、恨み、妬み、貶め、誹りなどの力により周りの風景が歪み真っ直ぐに進めない状況にあった。神龍は行く手を阻もうとする闇の塊を淘汰しながら道を開いた。その時である。広目天は前方に大きな歪を感じた。
「怒羅権(どらけん)か……何故……?」
広目天が疑問に思ったことも確かだった。怒羅権がこの時にこの場所に現れることが不思議だった。
「英良様……我の言葉が届きますか?」
「広目天殿……どうした?」
「怒羅権に御座います英良様。この者は一筋縄ではいかぬほどの者。かつて毘沙門天と対峙し引き負けたほどの者に御座います」
「怒羅権……?」
「御意。この難敵を打ち破るためには、英良様のお力が必要に御座います。神龍に誇龍の力を放っては下さらぬか英良様。英良様のお力なしではこの場を脱することは不可能かと思われます。何卒神龍へとお力を英良様」
前方の闇の塊は二体の悪魔となり黒い煙幕を巻き起こしながら禍々しい渦を形成してきた。しかし怒羅権ははっきりと姿を晒さない……広目天と神龍に姿を捉えられないようにしていた。