第二章 日本民主保守党と先立つもの
「ありがとう、感謝致します」
と言って武藤が深々と頭を下げた。
「よしてください武藤先生、先生の様なお方にそんな事されては困ります」
と幹事長が大慌てで頭を挙げるよう言った。武藤は内心ちょっと心配に思った。
(日本の与党の幹事長がこうも易々と私の演技に騙されていいのだろうか?)
と少し不安に思っていたのだ。すると幹事長が、
「ところで結党大会は何時頃を予定されているのですか? 遅くとも一月一日の基準日までに党を旗揚げしておかないと、当てにされている政党交付金は支給されませんが」
と言った。
「一一月三日の祝日に結党大会を開こうと計画しています。だからその日までに準備万端整えるつもりで、先ずは与党幹事長に仁義を切らせて頂きましてよ」
と言い放った。
「それはご丁寧なことに恐れ入ります。盛大な結党大会となる様祈念申し上げます」
と言ってくれた。この根回しの帰りの車の中で山脇からの連絡を受け、理事長室へ帰り着くと山脇が神妙な面持ちで、心なしか肩を落としたようなちょっと憂いを秘めた表情で待ち構えていた。何時ものように声を掛けられず暫くの沈黙の後、意を決した武藤が、
「先生、私に渡したいものって何ですか?」
と山脇に訊ねる様に言うと、
「ああ、急に時間を取ってくれなどと言ってすまなかった」
と言ったあと胸ポケットからおもむろに小切手を出して、
「何も言わずに受け取っておいてくれ」
と武藤に手渡したのだ、その金額は何と八千万円であった。
「えっ、何ですか! これ? こんな大金受け取れる訳ありません、でもどうなさったのですか?」
と事情を質すと、
「今何かと宣伝しているハウスリースバックで私が住んでいる家を査定して貰ったら八千万円で現金化できると言われ、子ども達は私の住む古い家など相続放棄したいと言っていたので、いっそのこと現金化して君が立ち上げる政党の出資金にして貰おうと思ったんだ。君自身も既に一億五千万円、出資したじゃないか、私にも出資させてくれても罰は当たらんだろう」
と言ってハウスリースバックでお金を作ったと教えてくれた。
「先生にそんな事させられません! 八千万円ですよ、大金な上に、西船橋のお宅は奥様との思い出の詰まったお家の筈じゃありませんか?」
と武藤が言うと、
「いいんだ、ほら、『先立つものは……』と言うだろう、これは私の遺言だと思って聞いて欲しいんだが、君の立ち上げる政党が中心になって何かと便利に使われ苦労を掛けている自衛隊を是非とも防衛軍や国防軍として軍隊へ格上げして欲しい。その事を是非私の遺言と思って、しっかりと聞き届けて置いてくれ」
と八〇歳になろうとは思えない迫力で言い放った。それを聞いても武藤が躊躇っていると、