円、債権、株のトリプル安に伴ないオフィスや商業施設の賃料も下がり始め、土地の値段が十分の一以下に下落するような状況では事業として全く成り立たずに塩漬けになっていたところ、古い荒れ果てた家屋が放置されていたり、家屋は取り壊されたものの手入れがされない土地には雑草が高く繁茂し、消防車も入れない細く入り組んだ道路が多い開発エリア内で不審火や死体遺棄事件が発生すると行政も放っておくわけにもいかなくなった。

そんな経緯で一気に法定再開発事業としての機運が盛り上がり、将来の建設工事受注や、大きく緩和された容積を使って建てられたマンション・オフィスの床の取得を見込んだ大手の建設会社やデベロッパーの参加も得て、市街地再開発準備組合が発足し、毎週定例会議が開催されるまでに進捗してきた時期に、美月が役所の担当者として、秀司は再開発エリア内の大口地権者代理として出会うことになったのだった。

定例会議の後は地権者同士で飲みに行くことが多かったが、コンサルタント会社や設計事務所の人間は会議で多くの宿題を与えられ、殆どの場合会社に帰って夜遅くまで仕事をすることになる。

そんなある日、会議体の中でも比較的気が合う美月、秀司、設計事務所の若い担当者が珍しく三人で飲むことになったが、設計事務所の彼が急な仕事で会社に戻らなくてはならなくなり、美月は秀司と二人で過ごすことになった。

秀司は行政側の担当者と二人きりになるのはまずいのではないかとも思ったが美月はそんなことは意に介する様子も無く、代々木の小さな居酒屋に入り、カウンター席で大いに飲んでしゃべって盛り上がった。

その日も美月は膝丈のタイトなワンピースにカーディガンを羽織っていた。

最初のうちは、同じ事業に携わりながらも立場の違いで様々な苦労があること、様々な権利者の我が儘に手こずっていることなどが話題になったが、酔いも回るとプライベートな趣味や休日の過ごし方などの話も出てくるものだ。

突然美月が聞いてきた。

「浮気とかしないの?」