愛しき女性たちへ

男の方が優秀で尊重されるべきだなどという思想は新石器時代、農耕文明の発展とともに生まれたもので、大きな道具を使って土を耕し重い作物を収穫するには男の腕力が重宝されたからだという説がある。

それ以前の時代も、他の集団との紛争や肉食獣と戦いながら獣を狩って洞窟まで持ち帰るには力強さが必要だったのだろうが、それによって男の方がエライなどとは考えられなかったようなのだ。

単なる性と役割の違いという認識で、異性を尊重し合っていたのではないかと考える研究者もいる。

農耕文明の浸透によって食料の調達が行き当たりばったりの自然任せでなくなる、つまりある程度計画的に富を蓄えることが出来るようになると、それを指導・管理する権力が発生する。

富を巡って争いが引き起こされる。争いに腕力は付き物だ。

このようにして男が腕力に物を言わせて政治をしきるようになり、それが九千年近くも続いた後に、二十一世紀になった。

戦争の世紀が終わりコミュニケーションの時代になっても、長い年月に培われた男優位の思想は世界的になかなか変わらなかったところ、近年欧米諸国を中心にその考え方を是正しようとする動きが主流となっているが、日本は変わらない。

そして奈保子の夫も変わらなかった。

徐々にふて腐れるような態度を取るようになり、家事を奈保子に押し付けるようになった。