そして顔を押えて崩れ落ちた母親に、冷たい水に浸した手ぬぐいを当ててあげるのだ。

十年以上そんな生活が続いただろうか。突然父親が死んだ。物流倉庫の仕分けやトラックの運転をしていたが、長年の不摂生がたたったのだろう。

母親は葬儀の後数日はボーッとしていたが、すぐに気を取り直し親戚が経営する惣菜屋でパートの仕事を始め、姉と幸恵を抱いて「おかあちゃんは二人だけが生きがいだよ、二人のために頑張るからね」などと明るく言ったのだった。

以来女手一つで幸恵と姉の二人を育ててきた。

だが狭い田舎の世界では、姉と幸恵が美しくなるにつれやっかみや警戒心もあり、妙な噂も立ったりする。片親で年頃の姉妹を見る目は優しくはないのだ。

母親の気遣いも幸恵には重く、感謝はするも息苦しく感じる。地元の高校を卒業するとすぐに、東京で事務職として就職した。

美しくスタイルも良いので社内外の男からよく声が掛かったが、普通の男には父の姿が被る。まだまだ、もっと理想の男がいるはずだ、私は安売りはしない、男に依存しないで生きると決めていた。

だが給料は安くこのままでは木造のアパートから抜け出せそうもない。若い女性に人気のあるブランドものの洋服やバッグなど手が出るはずもなく満たされることは無かった。

それでも数年は頑張ったが、アルバイト感覚で始めた水商売をきっかけに自然に夜の世界に入っていったのだった。

一年に二回ほど帰省する。水商売に身を置いたことを知っている母親は、上げ膳据え膳で世話をやき仕事のことや危ないことは無いのか、好きな男はいないのかなど根掘り葉掘り聞いてくる。

母親のことは大好きだったが、二人になるのが辛い。母親は、娘たちが自分のような不幸な女になってほしくないといつも思っていたのだろう。そんな母親に感謝しつつも幸恵には重いのだ。