このサイトでは、女性が男性に、または男性が女性にドタキャンされたり失礼な態度を取られたり、騙されたり危険を感じた時にバツ印の通報を付けることが出来、そのバツ印は相手側にはわからない仕掛けになっている。
その男は通報が五個付いていた。だが麻菜は気にしない。条件が合わなくて会えないというだけで、腹いせに通報するオンナやオトコはたくさんいるらしいし。
そんなことよりグズグズしてると若いオンナからのメールが殺到して私のメールなんか埋もれて見てもくれなくなっちゃいそうだ。
このサイトは女性会員の割合が七~八割で圧倒的に女性が多く、競争が激しい。新規の男性会員でイイオトコの獲得は早い者勝ちなのだ。
「ケンジ様。はじめまして。エリカと申します。プロフィールとお写真に惹かれてメールしてみました。落ち着いた大人の男性でいらっしゃるのですね。でもとてもお若く見えます。私は二人の子供と暮らしているシングルマザーです。それでも宜しければ少しお話し出来れば嬉しいです」
このサイトでは実名を使うことを禁止しており、みな俳優の名や童話に出てくる名を名乗ったりしている。
麻菜はエリカというハンドルネームで登録しており、プロフィールに写真は載せていないが、大人の関係を前提にした付き合いを前向きに考えていることを示す『積極的マーク』を付けてある。
記念すべき最後のアクセスと決めていた。その最後のアクセスで見つけたヒト。何となく素敵な予感。そう思っただけでウキウキした気分になってくる。
麻菜は自分がまだ夢見る女子だったことを実感し、新陳代謝が促され全身の細胞が若返るような久しく忘れていた喜びを感じるのだった。
【前回の記事を読む】マッチングアプリでの会話は表面的で即物的 いざ実際に顔を合わせてみても話の合わない人ばかり…
次回更新は8月13日(火)、20時の予定です。