捜査本部は、千葉真治、河北逸美夫妻の結婚披露宴の出席者の百二十三名を一人ずつ訪ねた。その結果、招待客のうち百十五名の家から同じ花瓶が発見された。
そして、残る四名が花瓶を他人に譲っていたが、これも追跡調査の結果、その所有が確認された。
後の二名は、花瓶を割っていた。すでに壊していたのだ。捜査陣は、この二人に花瓶を持たせた。そして、その指紋を採取したが、井上の部屋から出てきた指紋や犯行現場に残っていた指紋とは全然一致しなかった。
これで、百二十三名のうち百二十一名が判明した。
そして、最後に残された二人は、既に死去していた。一人は、逸美の母方の祖母だったので、これは後回しにした。もう一人は、石原智子という女で、千葉夫妻によると交通事故で死んだとのことだった。しかたなく大東と磯山は、生前の夫である達郎を大阪に訪ねた。ところが、花瓶は妻の実家にあるだろうと言われ、その日の夜、今度は智子の母親を訪ねた。
応対に出たのは、松葉杖をついたからだの不自由な母親だった。
その時、母親から娘の思い出話を長々と聞かされた。その中の一つに、智子が二年前の一月に交通事故に遭って死んだのは、金沢に旅行中のことだったという事実があった。
それを聞いた二人の刑事は、頭にピンと来るものがあった。
そして、智子が死亡する前から、からだが不自由であると言っていたこの母親が犯人であるはずがないと考えた二人の刑事は、昼間亭主に触れさせた花瓶をビニール袋に入れたまま、母親に見せた。が、母親は心当たりがなかった。二人は、智子の生前の持ち物を検分したが、そこには花瓶がなかった。
しかし、几帳面に整理されていた箱の中から宅配便の控えが見つかり、その中の何枚かに金沢市の城南町宛のものがあった。井上方にして、自分宛になっている。不自然だ。同居していたとも思える。
これで、井上信之輔は石原智子と関係があったことが判明した。
その日の夜、二人は夜行列車で金沢に帰った。金沢城南署に着くやいなや、花瓶に付着している智子の生前の亭主の指紋を鑑識に回した。
その結果、その指紋が犯行現場に残された指紋と見事に一致した。
また、智子の母親によると、達郎の血液型はB型とのことだった。それは、害者の頬に付いていた犯人のものと思われる血液型と同じだった。
捜査本部は、念のため二年前の犯行当日の金沢市内のホテル、旅館の名簿を調べた。すると、東都ホテルから石原達郎の名前が出てきた。
人生とは皮肉なもので、達郎が連行された日は、達郎が、同期のトップを切って、課長に就任する発令が出された日だった。
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本連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。