破局へのカウントダウン

八月三日(金)

女性センターに電話すると、提携する弁護士さんを紹介してくれた。そして後日、その弁護士さんに会いに行った際、「離婚される気はありますか?」と聞かれたので「はい」と答えると、「では家を出ないといけません」と。離婚調停をするにあたり、同じ屋根の下で当事者同士が一緒に生活しているのはおかしいからというのが理由だった。

「二度と家に戻ることができなくなります。できますか?」

私がうなずくと、弁護士さんは続けた。

「引っ越しても、裁判が落ち着くまでは、現住所はこちらにしておくほうがいいでしょう。こういう状況で住所変更をしてしまうと、ご主人が調べて訪ねて行くかもしれませんので」

となると、調停は、現住所のある神奈川の裁判所で行なわれることになるもし県外に引っ越し、そこで弁護士さんを頼むと、相談に行くには近いが、調停のたびに交通費と宿泊費を請求される恐れがあると説明したうえで、

「県内の弁護士なら、そうした請求はされません。私でよろしければお受けいたしますが、ほかの方に依頼されても構いません。どうされますか?」

私は、この人なら信頼できそうだと思い、「お願いします」と答えた。

「独り暮らしをしてみる気はある?」と、大学生の真奈美に聞いてみた。すると、「いいの?」と言うので、すぐに部屋探しを始め、九月早々に契約した。もちろん孝雄には言っていない。私たちの動きを絶対に悟さとられてはならないから。そのため、引っ越す際には引っ越し屋さんを頼まず、最低限必要なものを、私が何回かに分けて運んだ。わからないように、少しずつ、少しずつ……。

一方で佳奈美には、自分の進路について、もう一度よく考えるように言い、それによって兵庫の実家に行くか、ほかへ行くかを決めるからと行先を委ゆ だねた。そうしたところ、実家に帰ることになった。

私と佳奈美が持って出る荷物は、引っ越してしまった真奈美の部屋に、これも少しずつ置いていくようにした。そして特に私は、持って出るものを絞り込んだ。弁護士さんに、

「何もかも持って出てはいけませんよ。ご主人が生活するのに必要なものは置いていかないと、裁判が不利になりますからね」と言われていたから……。