破局へのカウントダウン
十二月四日(火)
今日家を出る。
夫が出勤するのを、いつもよりも遅いと感じながら、今か今かと待っていると、ようやく玄関へ。靴を履いて立ち上がり、意外にも、「夜の九時には戻る」と言い残して出かけていった。
確か数日前に、念のためスケジュール帳を確認した時には、デートと思しき予定が書かれていたはずだが……こんな日に限って、まさかのキャンセル……?
夫が行ってしまうと、私は少々あせりながら、慌ただしくも着々と準備を進めた。
大きな荷物は引っ越し屋さんに託し、さしあたって必要なものだけをカバンに詰め込む。予約しておいたレンタカーも急いで借りに行ってきて……午後九時前、車に荷物を載せ、ペットも連れて、佳奈美と一緒に出発。
(ふぅ、ギリギリやん! 危ない、危ない……)
お天気は、あいにくの小雨交じり。しかも夜道とあって視界が悪いため、安全第一でスピードを抑えて走ることに。今夜の目的地は、海辺の旅館だ。ペットも一緒に泊まれる宿を予約してある。
しかしこのペースでは、予定よりも時間がかかりそうだ。私は到着が遅れると宿に連絡して先を急いだ。
途中、警察から電話が入る。
「大丈夫ですか?」
「はい、すみません。今、車で移動中です。今夜は旅館に泊まって、実家には明日着く予定です……」
宿に着いたのは、日付が変わろうかという時間だった。車をおりると、真っ暗な海からは、冬の冷たい波音だけが聞こえてくる。本当なら、こんな真夜中に、ほうほうの体で車を乗り付けるような場所じゃないのに……。
午前一時過ぎ、やっと布団に入れたと思ったら、携帯電話が鳴った。孝雄からだった。何度も何度もかかってくるので、着信拒否の設定をした。
十二月五日(水)
ようやく実家に到着。車から荷物をおろし、レンタカーを返しに行く。その帰りに、無事到着したことを報告しに最寄りの警察署を訪ねると、
「旦那さんと縒りを戻すつもりはありますか?」と聞かれたので、「ありません」と答えると、その表情から決心が固いことを読み取ってくれたようで、
「わかりました。ご主人が来られるようなことがあったら、すぐに警察に連絡して、家には絶対に入れないでください。家に入った時点で逮捕します」
と言われた。
(逮捕するんや!)
警察を出て実家に戻り、カバンの中の荷物を整理する。その際、今さらながらに気づいて後悔したのは、結婚してからずっと毎日欠かさずに付けていた家計簿を、最近のものしか持ってきていないことだった。今後は離婚調停に向けて、資料になり得るものは、すべて弁護士さんに預けることになる。
古い家計簿も、そのひとつになるはずだった。