妻は「家に帰った夢を見た。台所や洗濯機のある所にも行けずトイレにも行けない自分がいて、役に立たない私は生きていても仕方がない……と叫んでいた」とつぶやいた。
「いてくれれば、それだけでいい。いつか一緒にお家に帰ろう」と返すのが精一杯だった。
半年以上前から出ていた妻の精神的異変に気づくべきだったと改めて反省した。まずは、起きる、座る、立つ。それからゆっくり2、3メートル歩き、排便ができるようになる。そこまで回復させて絶対に家に帰らせてあげると心に誓った。
叶わないかも……心の中で誰かがつぶやく。その瞬間涙が流れた。洗面台で顔を洗い、弱い心も洗い流した。
■2021年11月8日
看護主任から言われた言葉を胸に刻んだ。
「日々アップダウンを繰り返す。肝心なことは、ダウンしても落ち込まないこと。1週間前と比較して平均的にどれくらい変化したかを冷静に見極める眼力が大切。
ダウンしたら薬品や介護戦略を変えればよい。うまくいけば少しだけ負荷をかけ筋力をつけさせる。一喜一憂は禁物。今日を乗り切ればそれでよしとする。生まれ変わった奥さんの成長を認めてあげることが最も大切」
確かにその通りだと腹落ちした。
今日は、排泄物の回収方法と股間の洗浄に関して、布団の上で実施する方法を学んだ。感染症対策含め、綿密な事前準備もノートに記した。洗髪方法・手足洗浄方法など全てやり方が違う。妻が生きていくための機能は絶対に再生させてあげたいと心に誓った。