第一章 嫁姑奮戦記
この時改めて悟ったのだ。人には潜在的にすごい能力が備わっていることを。しかしどうして、こういう時にその力を発揮するのだ。自由になりたい一心からか。
その夜は夫と娘が付き添う。明け方まで妄想が強く、店をまた始めるとか葬式の段取りはどうなっているかと言ったり、相変わらず動き回るし点滴は抜こうとするし、自分たちが休めないので手を縛ったそうだが何度も解かれ、その集中力にはまいったとのこと。やはり潜在能力のなせる業だ。
滅多に居ない息子が様子を見に来る。義妹は何かと気を使ってくれ、勤め帰りによく立ち寄り食べ物や花を持って来てくれたり、行き帰りに便利なように自転車を貸してくれたりする。おかげで後々までずいぶん助かる。
私も帰ったら帰ったで用事が多い。今年の四月は季節はずれに暑いので草花も一月ほど成長が早い。いつの間にか花を咲かせている。皆も水はやってくれるが私がそれどころではないので、やはり可哀想だ。
二日続けて夫が泊まってくれたので、久しぶりに花の世話や姑のタンスの衣類の洗濯、整理などする。私の姉たちが見舞いに来ると言うので夫と交代する。さぞ二晩大変だったことだろう。
「おかんの元気なのには俺も付いていけへんわ。一晩中手すり持って起き上がるわ、点滴は抜こうとするわ、手すりの紐は解くわで一時も目が離されへん。俺も寝んと体もたんから、手しっかり縛って寝させてもろたわ」と陽気に言う。
深刻に思ったらとてもやっていけないのだ。元々楽天家なのだが。手すりはあらゆる所を紐で縛ってある。そうしないとすぐ外してしまうからだ。右脚を引っ張っているので手すりを外したら逆さ吊りになりかねない。この元気を私たち介護人に分けてほしいものだ。
姉たちが来ると丁寧に礼を言い、話をする。普通と変わらない。しかし、二、三時間も居ると異常さが分かり、顔を見合わせている。