と私が言うと、その看護師さんは、
「こういう時だからこそ、私たちは気を抜けないのですよ。病人には雪も何もありませんよ。介護の世界では日曜、祝日、盆、正月などありません。そういう時こそ心を引き締めなくてはならない時なのです。
こういう時こそ途中で何が起こるかわからない時なのでその分計算に入れて準備しなくてはならないのです。それが看護、介護の世界というものですよ」
とさも当たり前とばかりに言ってのけるのでした。私はさすがプロだと感動しました。
さらに彼女の言うのには、何としても車が通れないときには、歩いても行くのだそうです。今までにも、二時間も歩いて患者さん宅に行ったことがあったそうです。
これが『命を見つめる』世界で仕事をしている人の姿勢と言うものかとただただ感動するばかりでした。
大丈夫、オットウは、死んでいないよ。
家で仕事をしていた娘に、介護のヘルパーさんから出動のお声がかかったそうです。
このヘルパーさん、細かいところにまで心配りが出来る、夫のお気に入りのヘルパーさんなのです。いつも一人で全てやってのけるベテランで、彼女から私たち家族に呼び出しがかかるのは珍しいことなのです。
慌てて出かけた娘に、
「私が来た時も、今も、ずうっと寝ているのよ。いつもなら口を少し開いているのだけれども、今日はギシッと閉じているでしょ。私心配で、心配で・・・」
といつもニコニコ顔がトレードマークの彼女にしては珍しく、怖いような真剣な顔だったというのです。
「ハハハ、それは、それは。ご心配をおかけしてしまいすみません。大丈夫よ。オットウは死んではいないよ」
と娘が場面を換えるようにわざと大声で言うと、そのヘルパーさんはやっといつものニコニコ顔に戻って笑ってくれたというのです。