そのため、自宅までどのようにして帰ったのか覚えていない。朝気が付いてみたら、ベッドの上に横たわっていた。酔いが醒めてきたところで、酒の席で何を言ったのか記憶を手繰ってみたが思い出せない。何か気に障るようなことを言っていないだろうかと気になっていた。

千恵は、私と同じ会社の営業を統括する部署に所属していた。仕事柄、いろいろな営業マンと会話することが多く、見た目が派手で、社内では目立っていた。

そのため、デートは休日の夜遅い時間帯が多く、こっそり会って飲みに行ったりした。千恵と付き合っていることは誰にも話をすることはできなかった。

千恵は、海外旅行が好きで、学生時代や社会人になってからも、一年に一、二回は友人と出かけていた。観光名所や美味しかった料理を何度となく、話してくれた。

私は、あまり旅行に関心がなく、ジョギングやゴルフが好きだった。千恵と私とでは、趣味は全くと言っていいほど合わなかった。

実家を離れ、一人暮らしをしていた千恵は、部屋で録画した恋愛もののドラマを見ることが好きだった。私も付き合う以前から、たまに見ていた。千恵の部屋でドラマを一緒に見ることが楽しみの一つだった。

当時流行っていた、恋愛ものを二人で毎週見ていた。千恵はそのドラマの主人公の大ファンで、ピアノを弾いている姿を見て、「カッコいい、男の人がピアノを弾いているのって、素敵だよね」

「俺もピアノくらい、練習すれば弾ける、結婚するまでに聴かせてあげるよ」

勿論、ピアノなど一度も弾いたことはなかった。自宅にピアノはあった。練習するつもりがあれば、いつでも弾くことはできる。千恵の気を引くためだった。

 

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