千恵は、毎年人間ドックに行き、乳がん検査をオプションで受けていた。前年は行きそびれてしまったが、一昨年の診断結果で、所見は見当たらなかった。

千恵と初めてデートした場所は、銀座の居酒屋だった。軽いつまみを二、三品しか注文せず、ビールは何杯もおかわりした。

「お酒、強いですね」と私が言うと、

「昔は、もっと強かったんだけど……」

「ざるじゃなくて、枠だったのよね~」

「病気をして、随分弱くなってしまったみたい」

「病気をする前は、毎日のように上司や知人と会社帰りに飲みに行ってた。お酒を飲むことも仕事の一つだと思っているし、お酒自体も好きなの」

お酒がそれほど好きでない私は、「えっ?」と言ったものの、枠という言葉が何を意味しているのか分からない。

恐らくアルコールを水のように飲めるのだろうと思い、「枠って、そんなに強いの?」と聞き直した。

飲むスピードは、彼女の方が断然速かったが、負けず嫌いの私は、何とか追いついていこうと強くもないお酒を必死に飲んだ。