ドナルドさんは、「自社の木材を日本に輸出したい。」「日本に戻ったら日本の会社に問い合わせてくれないか?」と言う。

こんな学生みたいな者を捕まえて、切々と説く。その後の何日かの彼の「おもてなし」は至れり尽くせりだった。

「わかった、わかった。とりあえずやってみるよ。」と答え、自分の置かれている状況を説明しながらも、一応は承諾をしたのだった。

数日後、ドナルドさんが、「相談したいことがある。」と言って、また迎えに来た。彼には、以前付き合っている女性がいて、「よりを戻したい。」と言うのだ。

「今度一緒にスキーにいく予定があるから一緒に来ないか?」というお誘いだった。この話を聞いて、ピンときた。

「日本人の俺をつかって、元カノをスキーに誘い、よりを戻す気だな。」と思った。

「おもろいやつがいるから、一緒に来ないか?」とかなんとか言って誘い出したにちがいない。

彼女の名は「ジュアン」と言った。彼から写真を見せてもらうと、めちゃくちゃ美人だった。唾を飲み込んだ。

「こんな美人とつきあってたの?」と訊くと、彼はただ照れていた。「この野郎!」と内心思った。

そして当日、ドナルドさんの車で三人でスキーに出かけた。二時間は乗っていただろうか。後部座席から聞こえる前の二人の会話は、何の差し障りのない、取るに足らないものだった。

時々こちらに振られる話は、一言二言で返せるような、うわっつらな、中身のないどうでもいいような内容だった。それでも二人の会話は途切れることなく続いていた。

「この二人、けっこう気は合うんじゃないの?」と思った。スキー場に着くと、最初は三人一緒に滑ったものの、やがて別々となり、二人はどこかへ消えていった。

朝早くに出て、帰りはもうすでに日が落ちかけていた。帰りの車中でも、二人はずっと話し続けていた。後部座席の人の存在などもう関係なしに盛り上がっていた。

「ご勝手にどうぞ。」と日本語で呟いた。