(あ、あそこで待っていればマサキに会えるのかな)と思ったら居ても立ってもいられず、翌日朝から新宿に向かった。

新宿駅を降りて慣れた地下道を歩きスタジオのあるビルの横から地上に上がると、もうすでにたくさんの若い女性、いや若くない女性もたむろしている。しずかも目立たないように花屋さんの横の通路に立った。

時間がたつにつれ人がだんだん増えてくる。

そのうち車の往来に支障が出るくらい人が増えて、ついにビルから黒い上着を着た男性係員が何人か出てきて、「近隣に迷惑なのでここに立たないでください」と怒鳴って女性たちを追い払おうとする。が、皆少し道の端に移動するだけで立ち去る人はいない。

係員と女性たちのいたちごっこがしばらく続くうちに、急に裏口がざわざわし始め、出口の扉ぴったりにスモークガラスのワゴン車がつけられた。

クルマのドアが開いてちらっと金髪が見えたと思ったらキャーキャー叫び声がわいて、と思ったらもう車のドアがバタンとしめられた。

しずかの位置からは彼の顔はまったく見えなかった。車はすぐに滑り出し、彼は窓を開けて手を振ることもなく、あっというまに去っていった。

(あぁ行ってしまった……)

女性たちは三々五々どこかに散っていった。

しずかはまっすぐ帰るのもつまらなかったので、近くの大型書店に寄って雑誌をぺらぺら立ち読みしたり、デパートに入って雑貨を物色したりぶらぶらしたが、余計なものを買う余裕がなかったので、結局何も買わずに家に帰った。

彼には会えなかったけれど、すぐ近くまで行けたことに満足し、ちょっとだけうきうきしていた。