お嬢様の崩壊

翌日、自転車で近所を走っていて、新しい一軒家が数件建ち並んでいる場所があった。こんなところに新しい家が建ったのかと見ていると、そこから小さい自転車に乗った子とその母親らしい若い女性が出てきた。こんな若いのに新しい家に住めるのかと思うと猛烈に憎たらしくなった。

そのとき、その女性があの魚屋のレジの人だと気づいた。こんなすてきな新居に住んでいて魚屋で働いているのかと思ったら複雑な気持ちになった。

しばらくたってもまだ仕事は見つからずにいた。何枚も何枚も履歴書を書き、何度も何度も証明写真の焼き増しを注文した。写真代もばかにならない額になった。

そのころ、しずかが初めて参加したマサキのライブDVDの発売が発表されたので早速ネットで予約をした。

前の職場で一緒だった友希恵さんは社員だったのでそのまま別の部署に異動になって勤務していたが、今でもときどきメールをくれる。DVD楽しみね~などとメールで会話をしながら、彼女には仕事があることが羨ましかった。

DVDが発売になった。家族が出かけたあと、家事を済ませると毎日観て過ごした。コンサートの空気を思い出して彼の曲を聴いているときだけ、つらいことを忘れられた。その時間だけが至福のときだった。

また彼に会いたい気持ちでいっぱいになった。

ある日テレビを見ていると昼のトーク番組に翌日マサキが出るという告知があった。その番組は以前しずかが勤めていた新宿の会社の近くで公開している生放送番組だった。

お昼休みに食事に出たときにタレントの出待ちをしている女性が大勢いるのを何度か見たことがある。