藤堂は頷いた。

「旦那さんと事件前、最後に会ったのはいつですか」

「昨日、朝の家を出る時です」

「いつもはどういった生活なんですかね。お二人ともお忙しそうですよね」

「そうですね。夫は教職なので、家に帰るのは遅いですね」

「そうなんですね」

「私が夜勤でなければ朝と夫が帰って来た夕方、時間が許す限りは一緒にいます」

「それはいい。ところで今回の火事ですが何か心当たりありますか」

麗奈は口を閉ざした。藤堂の言葉が入ってこないようだった。体に事実が染み渡ると、俯いた。

「火の元が分からないんです」

麗奈は首を横に振った。明らかに染めたと分かる茶髪が揺れた。

「タバコを吸うとか、燃やしたとか、料理とか」

「タバコは二人とも吸いません。物を燃やすことはないです。料理もIHなので」

「コンセントに埃がたまっていたとか」

「掃除はしているつもりですが、それを含めて電化製品の劣化くらいしか、発火の原因が考えられません」

「もし故意だとしたら」

「誰かが火を放ったってことですか」

机の上に置かれた手がぎゅっと握りこまれた。爪が食い込んで痛々しい。それまでの表情からは想像できないほど鋭い視線を向けてくる。確かに現場ではガソリンのようなにおいがしていた。

「もしもの話です。考えられますか」

麗奈はしばらく考えたが首を横に振った。

「最近ご主人に変わった様子はありませんでしたか?」