第二章
一年一組
「そうだ、その人叫んでいました」
「叫んでいた?」
「ええ。ツキシマツバサがどうとか」
「ツキシマツバサ?」
顔を曇らせた。行沢は聞いた名前をメモに取っている。
「その名前に心当たりはありますか」
「いいえ。知りません」
それから通報者に何点か話を聞いたが、特段おかしな様子はなかった。他の住民も同じような証言だった。矛盾点や食い違いは見られない。みな一様にツキシマツバサという名前を聞いているが、その存在は知らないらしい。
「この家の住民は」
「野口樹という、確か高校の先生だったはずですよ。ほら近所の、そうそう、植木田高校です。あと奥さんがいたと思います。確か奥さんは看護師と聞いています。もしかしたら今、まだ職場にいるかもしれないですねえ。少なくともここに見当たらないですね」
老婆はたおやかに言った。
藤堂は周辺を見渡した。先ほどまでの喧騒が嘘のような穏やかさだった。
藤堂は捜査員たちと情報を共有しながら、刑事を学校に向かわせた。一方で野口樹の奥さんと連絡を取るため行沢を向かわせた。その間藤堂は他の近隣住民に話を聞いて回った。
「怪しい人物を見かけませんでしたか」
ある主婦は言った。
「さあ、私たちはあの人を消火するのに必死だったので」
また、あるサラリーマンは言った。