「怪しい人物は、さあちょっと分かりませんね。火が出た時刻はちょうど通勤時間だったから、通行人は多かったし。ここは確かに田舎だけど、周囲に住んでいる人のこと全員覚えているわけじゃないし。時刻が時刻だから見かけない人物が混ざっていたとしても不審には思わないですね」
他の目撃者も同様の証言を繰り返すばかりだった。藤堂は二つ目の質問をする。
「近所の方々から見て、野口さんはどんな方でしょう」
若い女性は言った。
「さあ普通だと思いますよ。お仕事が忙しいから、あまり旦那さんとお会いすることはありませんけれど。奥さんもあまり表には出てこないですね。内気なんでしょう。お子さんがいるのかな。家族構成はよく分かりません。でもすれ違った時とか嫌な感じとかはしないので別にって感じです」
若い男性は言った。
「野口さんは挨拶もしてくれるし、愛想もいいですが、私生活までは。名前だって今知ったくらいです」
「最近変わった様子はありましたか?」
「いえ、特にはなかったんじゃないですか。あの、すみません、野口さんの火事って、事故じゃないんですか?」
「それはまだ分かりません。もしもの時のために調べさせていただくんです」