第二章

マガダ王ビンビサーラは、後年、子のアジャータサットゥに幽閉され、王位を奪われ、67歳くらいの時、餓死させられたという。アジャータサットゥは、後に事の重大さに気付き、罪を悔い、ゴータマに帰依したという。

中田たちが鷲の峰(ギッジャクータ)に行った時は、まだ暗いうちにホテルを出発した。登り口で中田たちはバスを降りた。ラージャガハの南東口にあたると思われる。

銃身の長い銃を持った護衛が一人、待っていた。強盗が出没するというのである。中田たちは懐中電灯で足下を照らしながら、2m程の幅の暗い道を、兵士と共に登り始めた。

ビンビサーラ王が整備したといわれる石畳の道は歩き易かった。まだ明けやらぬ中を30分程登ったであろうか。頂上が近付くにつれて大きな岩が黒く目に入ってきた。

岩の脇の急な階段を登りきると、頂上も岩であった。岩は平らにされていて、幅5m、奥行き20m‌程の長方形の、一番奥まったところの一部を、50cm程の高さに褐色の煉瓦を積んで、囲ってあった。

香室址だそうで、香炉が置かれ、線香の煙が立ち上って、土地の人であろう、数人の男が既にいた。

ゴータマの時代に煉瓦が積んであったとは思われないが、今から約2500年前、ゴータマは間違いなく、今、中田たちが立っている場所にいたのだと思うと、中田は、ただ無言で佇むばかりであった。